自己肯定感が低いのは家庭環境のせい?調査でわかった「効いている大きさ」と、今から変えられる部分

氣分を上げる

「うちは、ひどい家ではなかった」。そう思っているのに、自分のことは好きになれない。

そういう人が、夜中に「自己肯定感 低い 家庭環境」と検索します。家のせいにしたいわけではなくて、理由の置き場所を探しているだけなのだと思います。犯人が分かれば、少しは楽になる気がするからです。

ここでは家庭環境の影響を、感想ではなく国の調査の数字で確かめていきます。結論を先に置くと、家庭環境は効いています。ただ、思っているより小さい。そして変えられる部分のほうが、はっきり残っているという話です。

自己肯定感が低いのは、家庭環境のせいですか?

半分は当たっていて、半分は外れです。 こども家庭庁が5か国で行った調査では、「親から愛されている」という実感は、生活満足度への効きめが0.08〜0.10でした。同じ調査で「友人が十分いる」は0.09〜0.13※1。親の存在は、友だちの存在と同じくらいの大きさという結果です。

効いていないのではありません。ただ、人生を一本で決めてしまうほどの大きさでもなかった、ということです。

ここを先に押さえておくと、この後の話が読みやすくなります。「家庭環境のせいだ」と「家庭環境は関係ない」の、どちらも少しずつ違っている。関係はあるが、大きさは中くらい。それが数字の答えです。

家庭環境は、自己肯定感にどれくらい効いているの?

数字にすると0.08〜0.10です。 これは「標準偏回帰係数」という、複数の原因を同じ土俵に並べて効きめを比べた数値で、1に近いほど強い※1。日本の1,085人分(親についての設問に答えた人)の回答で、親から愛されている実感は0.08〜0.10。いちばん強かった項目は0.31で、その4分の1から3分の1ほどでした。

調査は、日本・アメリカ・ドイツ・フランス・スウェーデンの満13歳から満29歳の男女に、2023年(令和5年)11〜12月にインターネットで聞いたものです。日本の回答は1,089人分。日本の結果だけ並べると、こうなります。

  • 私は、自分自身に満足している … 0.31(生活満足度への効きめ)
  • 自分には友人が十分いる … 0.10
  • 自分の親(保護者)から愛されている(大切にされている)と思う … 0.08
  • 自分は役に立たないと強く感じる … マイナス0.08

これだけ見ると「じゃあ親のことは忘れろということか」と言われそうですが、そうではありません。マイナス方向に効いている項目があることに注目してください。「自分は役に立たないと強く感じる」は、生活満足度をマイナス0.08、人生の意義をマイナス0.13まで下げていました。

つまり、足りないのは愛された記憶ではなく、「自分は役に立っている」という感覚のほうかもしれない。ここは後でもう一度出てきます。

なお、こういう数字を見ると「うちの親は本当にひどかったのに、たった0.08なのか」と腹が立つ人もいるはずです。この0.08は、1,085人を平均したときの大きさです。あなた個人の中で何割を占めていたかは、この数字では分かりません。

同じ家で育ったきょうだいなのに、自己肯定感が違うのはなぜ?

同じ家で育っても似ないほうが普通だからです。行動遺伝学という分野では、環境の影響を「きょうだいで共有する部分(家庭)」と「一人ひとり違う部分」に分けます。そして繰り返し確かめられてきた10の知見のひとつが、「環境要因のほとんどは家族で共有されない」でした※2。

慶應義塾大学の安藤寿康さんの論文には、こう書かれています。性格については、そもそも家庭で共有される環境の影響が見られない。共有される環境がはっきり出るのは、知能や学力のような学んで積み上げる力、たばこや薬物、青年期より前の非行、そして親子の愛着など、限られた形質だけ※2。

これは「親は無関係」という意味ではありません。同じ親でも、上の子と下の子では別の親をやっているということです。生まれた順番、そのときの家計、親の忙しさ、たまたま入った部活、最初にほめてくれた他人。効いているのは、そういう一人ひとり違う側のほうでした。

この考え方をもっと詳しく知りたい人向けに、同じ著者が一般向けに書いた日本人の9割が知らない遺伝の真実という本があります。この記事で引いた「環境の効きめは家族で共有されない」という話を、一冊を使って扱っている本です。

ひとつ注意も書いておきます。論文には「遺伝率は集団の統計量なので、個人に還元して解釈はできない」とはっきり書かれています。知能の遺伝率が60%でも、「IQ100のうち60までが遺伝で、残り40が環境」という意味ではない※2。自分ひとりの内訳を、この手の数字から計算することはできません。

「愛されて育ったはず」なのに、自己肯定感が低いのはなぜ?

愛情と、意見を受け取ってもらえた経験は、別ものだからです。 同じ調査で、日本の若者の80.8%が「親から愛されている」と答えました。調査した8項目の中でいちばん高い数字です。ところが「自分自身に満足している」は57.4%※1。23.4ポイントの差が空いています。

この差の正体が見えるデータが、同じ報告書の中にあります。家庭がどういう場所かを聞いた質問です。

  • なにもせずのんびりできる、ありのままでいられる … 日本57.1%(アメリカ47.8%、ドイツ40.1%、フランス44.0%、スウェーデン46.0%)
  • 悩みの相談ができたり、自分の意見や希望を受け入れてくれる … 日本32.4%(アメリカ35.6%、ドイツ48.1%、フランス39.9%、スウェーデン43.2%)

休める場所としては、日本の家庭が5か国で1位です。 意見を受け取ってくれる場所としては、5か国で最下位でした※1。

ここが、この記事でいちばんお伝えしたかったところです。「愛されなかったから自己肯定感が低い」という説明は、多くの人に当てはまりません。当てはまるのは、ごはんもあって、部屋もあって、大事にもされていた。ただ、自分の意見を置く場所が無かったという形のほうです。

もうひとつ、同じ報告書に載っている数字を並べます。悩みや心配ごとを誰に相談したいかを聞いた質問です。日本のこども・若者の答えは、母が55.2%、近所や学校の友だちが33.1%、父が26.7%、きょうだいが17.3%でした※1。

母に集中していて、あとが細い。同じ家に住んでいても、話を置ける相手は実質ひとりだけという形になっています。そのひとりが忙しかった家、体調が悪かった家、あるいは「お母さんを困らせたくない」と思った子どもは、置き場所が残りません。

「だれにも相談しない」と答えた割合も、日本は11.2%でした。ドイツは4.8%、スウェーデンは4.4%です※1。ひどい家庭が多いのではなく、話を置く先が家の中で1本しかない。差が出ているのは、そこです。

「そんなの贅沢だ」と思った人ほど、心当たりがあると思います。ひどい親ではなかったから、文句を言う資格がないように感じる。その「資格がない感じ」こそが、意見を置けなかった証拠です。

自分の基準で決めていく話は、自分軸とは?他人軸との違いと、わがままにならない見つけ方のほうで詳しく書きました。

親を責めたら、自己肯定感は上がりますか?

一時的には上がります。ただ、そこで止まると戻ります。 責任の所在をはっきりさせる作業と、今日からの自分が変わる作業は、別々の仕事だからです。前者を終わらせないと後者に進めない人もいるので、順番として間違ってはいません。問題は、前者で止まったままになることです。

ここで、私自身の話をひとつ。

会社員だったころ、お金のもらい方をバイトの時給の感覚でとらえていました。1時間そこにいれば、お金がもらえる。恥ずかしながら、その感覚でした。

その後、個人事業主として完全歩合(売れた分だけが収入になる形)で働いてみて、初めて分かりました。自分の売上が悪くても毎月決まった額が入ることが、どれだけありがたかったか。 会社がそれをできるのは、売上が上下しても給料を払える仕組みを会社の側が持っていたからです。

正直に書くと、今でも会社に文句を言ってしまうし、すぐ忘れます。 ただ、あのときの苦しさを深く思い出すと、ありがたいと思えるところまで戻ってこられる。

家庭も、これと同じ形をしています。中にいるあいだは、自分が何を基準に採点されていたのかが見えません。 外に出て、別の基準を持った人と暮らしたり働いたりして、初めて「あれは世の中の基準ではなく、うちの基準だったのか」と分かる。そして分かったあとも、行ったり来たりします。一度気づけば終わり、という種類の話ではないということです。

自己肯定感が低いのは、うちの家庭だけの問題ですか?

家庭の外に出ても、同じ形が続いています。 「社会において、自分に関係することについて意見や気持ちを聞いてもらえると感じているか」を聞いた質問で、感じていると答えた日本のこども・若者は42.2%でした。スウェーデンは75.6%、ドイツは70.3%、フランスは58.1%、アメリカは54.8%です※1。

5か国で最下位で、スウェーデンとは33.4ポイントの差があります。

さらに、こどもには「自分に関係することについて、意見や気持ちを聞いてもらえる権利」があると知っているかを聞くと、日本では「聞いたことがない」が50.3%。半分を超えていました※1。

家庭でも、学校でも、職場でも、意見を出す前に「これを言っていい立場か」を考える。その形のまま20年も過ごせば、自分の考えに値札が付かなくなるのは自然なことです。

ここまで来ると、犯人探しの意味が薄くなってきます。親が特別だったのではなく、親もまた、意見を置く練習をしないまま親になった。責める相手を探す作業は、このあたりで打ち切って構いません。

自己肯定感は、大人になってからでも上がりますか?

上がります。しかも、上がるのが普通です。 4歳から94歳までの16万人以上を、331の研究から集めて分析した結果があります。自己評価は子ども時代に上がり、11〜15歳のあいだは横ばいになり、そこから30歳まで強く上がり、60〜70歳でいちばん高くなる※3。

思春期にへこむ、というイメージを持っている人が多いのですが、追いかけた実データでは、思春期は「下がる」ではなく「横ばい」でした。この分析をしたベルン大学は、発表のタイトルにわざわざ「子どもと10代の自己価値は、思われているよりも良く育つ」と書いています※3。

日本の数字にも、同じ向きの変化が出ています。「自分自身に満足している」と答えた割合は、平成30年度の45.1%から令和5年度の57.4%へ、12.3ポイント上がりました。「自分は役に立たないと強く感じる」は51.8%から46.1%へ、5.7ポイント下がっています※1。

【推測】ただしこの2つは同じ人を追いかけた調査ではないので、上がったぶんの一部は、答えた人の世代が入れ替わったことによるものだと考えています。それでも、日本の若者の自己肯定感は下がり続けている、という古い前提のままでいると、事実を見誤ります。

家庭環境のせいにできない部分を、今日どう動かすか

動かせる場所は3つです。 どれも、親と話さなくてもできます。

1つめは、家庭以外に「意見を置ける場所」を1つ作ること。 同じ調査で、地域(図書館や公民館や公園など)について「あてはまる場所はない、わからない」と答えた日本の若者は44.8%、習いごとや趣味のサークルでは47.6%でした※1。半分近くが空欄のままです。ここは、いちばん伸びしろが残っている欄です。

オンラインでも構いません。条件はひとつだけ、自分の意見を言っても関係が壊れない場所であること。

2つめは、「役に立たない感」を直接下げること。 数字の上で自己肯定感をいちばん引き下げていたのは、「自分は役に立たないと強く感じる」でした※1。これは、性格ではなく記録の問題です。役に立った瞬間は、その日のうちに忘れます。

やり方は、1日1行。「今日、誰の何が少し軽くなったか」だけを書く。 感想は書きません。事実だけ。3週間分たまると、「役に立たない」が事実ではなかったことが、自分の字で残ります。記録の続け方は記録が続く人と続かない人の違いにまとめました。

3つめは、自分を採点している基準を、紙に書き出すこと。 「人に迷惑をかけない」「口答えしない」「成績が下がったら価値がない」。書き出したら、それぞれの横に「誰の基準か」を書き足します。

ここで手が止まる項目が、家庭環境から受け取ったものです。消さなくて構いません。 出どころが分かるだけで、それは「自分の性能」ではなく「借りものの物差し」に変わります。比べてしまう癖については比べてしまうのはなぜ?、自己肯定感そのものの上げ方の順番は自己肯定感を上げる方法のほうに書いてあります。

家庭環境のせいにしていい場面と、しないほうがいい場面

原因を探すときは、家庭環境のせいにしてください。 自分の性格の欠陥だと思っていたものが、育った場所の基準だったと分かるだけで、自分を責める回数が減ります。ここで遠慮する理由はありません。

明日の行動を決めるときだけ、いったん脇に置きます。 親を変えることはできないので、そこに理由を置いたままだと、打つ手が「親が変わること」しか残らなくなるからです。

そして、ひとりで抱えきれないときのために、窓口があります。厚生労働省の「こころの耳」では、電話・メール・SNSの相談先がまとめてあります※4。眠れない、食べられない、涙が止まらないが2週間以上続いているなら、自己肯定感の話ではなく、体の話として扱ってください。

家庭環境は、選べませんでした。ただ、今いる場所と、そこに置く物差しは、今日から選べます。 0.08と0.31の差は、そこにあります。

出典

Amazonのアソシエイトとして、カラフル坂は適格販売により収入を得ています。

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