「今日から毎日つけよう」と決めた日のことは、たいてい覚えています。覚えていないのは、いつやめたかのほうです。
体重計に乗って数字を打ち込む。レシートを見ながら家計簿に書き写す。寝る前に3行だけ日記を書く。どれも1分で終わる作業なのに、気づくと2週間空いている。そして再開しようとしたとき、空いた2週間をどう埋めるかで手が止まる。
私も同じことを何度もやりました。だからこの記事は「がんばって続けましょう」という話ではありません。続いた記録と、止まった記録で、何が違っていたのか。 研究と、自分の失敗の両方からたどります。
記録が続く人と続かない人の違いは、意志の強さではない
記録が続く人と続かない人を分けているのは根気の差ではなく、記録の使い道の差です。記録を「自分を採点する道具」にした人は止まり、「やったことを確認する道具」にした人は残ります。同じ体重計、同じ家計簿でも、書いた数字を何に使うかで寿命が変わります。
ここが、この記事でいちばん伝えたいところです。
続かなかったとき、私たちはまず自分の性格を疑います。飽きっぽい。意志が弱い。根が雑。けれど、その同じ人が仕事の日報だけは何年も出していたりする。続くかどうかを決めているのは性格ではなく、その記録が自分に何を返してくるかでした。
数字を見るたびに「今日もだめだった」と言ってくる記録は、書くほど気持ちが重くなります。重くなれば手が止まる。止まれば空白ができて、空白を見るのがいやになって、最後はアプリを開かなくなる。この流れは、意志の強さとは別の場所で動いています。
その「別の場所」を、3つに分けてたどります。頻度の話、使い道の話、そして書く中身の話です。
そもそも記録は何かを変えるのか|138の研究が出した答え
結論から書くと、記録は行動を動かします。2016年に発表された分析では、138の研究・のべ19,951人ぶんのデータを集め、進み具合を記録させる働きかけが目標の達成をどれだけ押し上げるかを測りました。押し上げの大きさは効果量で0.40(95%信頼区間0.32〜0.48)※1。
この分析がおもしろいのは、何が効きめを強めたかまで踏み込んでいるところです。
- 記録をつける回数が増えたことが、目標の達成につながっていた(回数そのものへの押し上げは効果量1.98)※1
- 結果を人に報告した/公開したときのほうが、押し上げが大きかった※1
- 情報を物理的に書き留めたときのほうが、押し上げが大きかった※1
頭の中で「今週は3回走った」と数えるのと、紙やアプリに残すのとでは、同じ「記録」でも別物だったという話です。
これだけ見ると「じゃあ全部つければいいじゃないか」と思えます。けれど現実には、ほとんどの記録は1か月もちません。記録に力があることと、記録が続くことは、まったく別の問題だからです。
なお、ここで言う0.40という数字は「目標に近づいた度合い」であって、特定の商品や方法の売り文句ではありません。研究が測ったのは、記録という行為そのものです。
記録が続かない理由①|「毎日つける」と「気が向いたらつける」は別物
同じ回数つけても、毎日つけた記録と、気が向いた日につけた記録では、体に残るものが違います。 習慣は「決まった場面で、同じ行動を繰り返す」ことで自動化されていくため、場面がばらばらだと回数が積み上がっても自動化が進みません。
2010年に発表された研究では、96人が新しい生活習慣をひとつ選び、84日間、毎日その行動を記録しました。行動が「考えなくてもできる」状態に届くまでの平均は66日。ただし個人差が大きく、18日で届いた人から、予測値で254日かかる人までいました※2。
66日という数字より、18日から254日という幅のほうが大事だと思っています。
3日でやめた自分を「三日坊主だ」と責めるとき、私たちは頭のどこかで「1週間くらいで身につくもの」と考えています。でも研究が見ていたのは、早い人でも18日、遅い人なら8か月という世界でした。2週間で身につかないのは、失敗ではなく予定どおりです。
記録を1日飛ばしても壊れない。壊れるのは飛ばし方のほう
同じ研究には、続けたい人にとっていちばん心強い結果が入っています。1日飛ばしただけでは、その後の自動化にほとんど響かなかったのです。ただし、飛ばした回数が積み重なると、最終的に届く自動化の高さが下がりました※2。
つまり、こういうことになります。
- 1日空けた → ほぼ無傷。翌日また書けばいい
- 2日、3日と空けた → ここから戻りにくくなる
「1日でも抜けたらリセット」という考え方は、研究の結果とは逆を向いています。連続記録が途切れた瞬間に、それまでの全部がどうでもよくなる。あの感覚は、記録の問題というより完璧主義の側の問題です。そちらについては完璧主義の治し方|基準を下げるより「終わりを先に決める」に詳しく書きました。
記録に置き換えるなら、決まりは1行です。2日続けては空けない。
記録が続かない理由②|記録を「評価」に使った瞬間に止まる
ここがこの記事の中心です。記録を自分への採点表にすると、記録そのものが罰になります。 書けば書くほど「できていない自分」を突きつけられる仕組みを、自分の手で毎日回すことになるからです。
手がかりになるのは、ごほうびと動機づけの関係を調べた1999年の分析です。128の研究をまとめたところ、行動に対して報酬を出す形は、その行動を自分から進んでやる気持ちを押し下げていました(効果量はそれぞれ-0.40、-0.36、-0.28)。いっぽうで、肯定的なことばのフィードバックは、進んでやる気持ちを押し上げていました(0.33と0.31)※3。
報酬と罰は下げ、事実の承認は上げる。記録に当てはめると、こう分かれます。
| 記録の使い道 | 何が返ってくるか |
|---|---|
| 目標値に届いたかを毎日採点する | 届かない日が罰になる。書くのが重くなる |
| 昨日の自分と比べて上下を判定する | 判定が目的になり、数字を動かしたくなる |
| やった事実だけを残す | 「やった」が返ってくる。書くのが軽い |
私が体重計を続けられなかった時期は、完全に上2つでした。乗る前から、増えていたら乗らないと決めている日がある。測るのが怖い日に測らなくなるのは当然で、そこには意志の入る余地がありません。
人と比べる形で採点しているときも同じことが起きます。この感覚は比べてしまうのはなぜ?人と比べる自分を責めなくていい理由で扱いました。
数字を追いかけるほど、数字以外が壊れていく
これは記録の話であると同時に、私が仕事で痛い目を見た話でもあります。
オンラインセキュリティ研修のサービスを売っていたころ、商談数と問い合わせ数を毎日数えていました。数を追うので時間に追われる。時間に追われるので、1件あたりの中身が薄くなる。数字は毎日きれいに記録されていくのに、売れなくなっていきました。
我に返ったのは、連絡先の自動追加で昔のお客さんの名前が画面に出てきたときです。新卒のころは何も知らなくて、ただ一生懸命やっていた。それで喜ばれて、数字も伸びていた。知識が増えて、効率を考えるようになってから、おかしくなっていた。
記録が悪かったのではありません。記録を「成績」として扱ったことで、記録の外にあるもの——目の前の相手が何に困っているか——が見えなくなっていました。
体重でも家計でも、同じ形になります。数字を良くすることが目的になると、測り方のほうを都合よく変えはじめる。夜は乗らない、都合の悪い出費は「特別費」にする。そうやって記録の精度が落ち、精度が落ちた記録は見る価値がなくなり、最後に消えます。
記録が続く人は「できたか」ではなく「やったか」を書いている
続いている人の記録を見ると、書いてある中身が違います。結果ではなく行動が書いてあるのです。 体重ではなく「乗った」、貯金額ではなく「入力した」、達成度ではなく「3行書いた」。行動なら、やった時点で必ず○が付きます。
厚生労働省が示している行動変容ステージモデルでは、人が行動を変えるとき「無関心期→関心期→準備期→実行期→維持期」という5つの段階を通るとされています※4。最後の維持期まで行くには、実行期のあいだ○が付き続ける必要があります。 結果だけを書く記録は、この期間にほとんど×しか返しません。
具体的には、こう置き換えます。
- ✗「体重 62.4kg」 → ○「乗った/62.4」
- ✗「今月の赤字 8,000円」 → ○「レシート入力した/赤字8,000」
- ✗「今日もだめだった」 → ○「21時に机に座った/20分」
数字を捨てるわけではありません。行動を先に書き、数字は後ろに添える。 順番を入れ替えるだけで、目に最初に入るものが変わります。
この「何を見るか」で結果が変わるという考え方は、やり抜く人の9つの習慣(ハイディ・グラント・ハルヴァーソン/ディスカヴァー・トゥエンティワン/2017年)でも一章を使って扱われています。目標までの残りを見るか、ここまで来た距離を見るかで、続き方が変わるという論点です。
自分に×を付け続けると、記録の問題が自己評価の問題に変わっていきます。そこまで来ているなら、自己肯定感を上げる方法|「自分をほめる」が効かない人へのほうが近い話かもしれません。
記録の手間は、道具でどこまで減らせるか
記録が止まる直前には、たいてい書く手間が残っています。乗るだけで数字が送られる体重計、口座やカードとつながる家計簿アプリ、書く欄があらかじめ決まっている手帳。測る道具を先に用意しておくと、自分がやる作業は「書く」から「見る」へ減ります。
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ここは正直に書いておきたい。さきほどの138研究の分析では、物理的に書き留めたときのほうが押し上げが大きかった※1。道具に任せて自動で溜まる数字は、放っておくと誰も見ないデータになります。
だから、私が落ち着いた形はこうです。
- 数字は道具に取らせる。 自分で計算しない、書き写さない
- 1日1回、その数字を見る。 見ることが記録の本体になる
- 見たついでに、1語だけ足す。 「寝不足」「外食」「よく歩いた」
3の1語が、あとで効いてきます。数字だけの表は読み返しても何も思い出せませんが、1語あると当時の生活が戻ってきます。
ちなみに、国の家計調査も似た設計になっています。総務省統計局が全国の約9,000世帯を選んで家計簿をつけてもらう調査ですが、同じ世帯がつけ続けるわけではなく、二人以上の世帯は6か月、単身世帯は3か月で次の世帯と交代します※5。ずっとつけ続ける前提にはなっていない、ということです。
国の統計ですら期間を区切っているのに、個人が「一生つける」と決めてしまうのは、少し無理があります。 まず3か月。それが終わったら、続けるかどうかをそこで決め直す。そのくらいで十分です。
記録が途切れた日からの戻り方|3つの手順
途切れたあとに戻れる人は、空白を埋めません。空白は空白のまま、今日から書き直します。 遡って埋める作業は、たいてい途中で力尽きて、そのまま二度と開かなくなります。
順番はこの3つです。
1. 書く量を、いちばん少なかった日まで減らす
続いていたころの自分ではなく、いちばん雑だった日の自分に合わせます。3行日記なら1行。家計簿なら「使った合計」だけ。体重なら数字1つ。減らしすぎて意味がなくなる心配は要りません。1日飛ばしても自動化はほとんど落ちなかった※2のと同じで、薄い記録でも回数は回数です。
2. 時間と場所を先に決める
行動が自動化されるのは、同じ場面で繰り返したときでした※2。「思い出したら書く」は、場面が毎回違うので積み上がりません。歯を磨いたあと、電車に座ったあと、風呂を出たあと。すでに毎日必ずやっていることの直後にくっつけます。
3. 終わる日を先に決める
「いつまで」を決めずに始めた記録は、やめどきがないぶん、逃げ道が「もうやめる」しかありません。3か月で一度終わりにすると決めておけば、終わりまで走れます。
私がイライラの実況をやってみたときも、期間を区切って始めました。イライラの実況を1日やってみた記録は読み返すと笑えるくらい妄想の中で怒っていて、その時点では何の解決にもなっていません。 ただ、書いたものが残っていたので後から眺められた。記録の値打ちは、その日ではなく後から出てきます。
続けること自体を扱った本としては、続ける思考(井上新八/ディスカヴァー・トゥエンティワン/2023年)があります。毎日やる量をどこまで小さくするか、記録をどう「作業」に落とすかという、この記事で書いた2と3にあたる部分を一冊かけて扱っています。
まとめ|記録が続く人と続かない人の違いは、記録の使い道にある
- 記録は行動を動かす。 138研究・19,951人の分析で効果量0.40。書き留めた場合と、人に見せた場合はさらに大きい※1
- 自動化までは平均66日、早くて18日、遅いと254日。 2週間で身につかないのは予定どおり※2
- 1日飛ばしても壊れない。 壊れるのは、続けて空けたとき※2
- 採点に使うと止まる。 報酬と罰は進んでやる気持ちを下げ、事実の承認は上げる※3
- 書くのは結果ではなく行動。 ○が付き続ける形にする
- 期間は区切ってよい。 国の家計調査ですら3〜6か月で交代する※5
記録が続かなかった自分を責める必要はありません。続かない形で始めていただけです。
今日できるいちばん小さな一手は、ノートでもアプリでも開いて、今日やったことを1行だけ書くこと。 昨日までの空白は、埋めなくてかまいません。
出典
- ※1 Does Monitoring Goal Progress Promote Goal Attainment? A Meta-Analysis of the Experimental Evidence(Harkin, B., Webb, T.L., Chang, B.P.I. ほか/Psychological Bulletin 142(2), 198-229, 2016/White Rose Research Online)
- ※2 How to form a habit(英国心理学会 BPS Research Digest/Lally, P. ほか, European Journal of Social Psychology, 2010 の紹介)
- ※3 A Meta-Analytic Review of Experiments Examining the Effects of Extrinsic Rewards on Intrinsic Motivation(Deci, E.L., Koestner, R., Ryan, R.M./Psychological Bulletin 125(6), 627-668, 1999/ボルチモア大学が公開しているPDF)
- ※4 行動変容ステージモデル(厚生労働省 e-ヘルスネット/健康日本21アクション支援システム)
- ※5 家計調査の概要(総務省統計局)
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