やる気が出ない・何もしたくない時の対処法|原因は「手間の見え方」

氣分を上げる

「やる気が出ない」「何もしたくない」で調べると、出てくるのは心療内科や精神科のページばかり。今回数えたぶんでは、上から9件が9件ともクリニックのサイトでした。

書いているのがお医者さんなので、中身は正確です。ただ、知りたいことが「今日の夕方、どう動き出すか」だったとき、病名の話はすこし遠いところにあります。

そこでこの記事は、病名の見分け方を一切書きません。代わりに、脳がどういう計算をして「動く/動かない」を決めているかを説明します。 国の研究機関が2021年に公表したサルの実験では、「ごほうびが欲しい」というやる気と、「大変だけど頑張ろう」というやる気は、脳の中で別々の仕組みで動いていることが分かりました※1。ヒトと同じ霊長類で得られた結果なので、そのまま人間に当てはまると決まったわけではありません。それでも、この2つを一緒くたにして気合を入れても片方しか押せない、という見取り図は使えます。

やる気が出ない・何もしたくない時の対処法|効くのは「やる気を待たない」順番

やる気が出ない・何もしたくない時の対処法は、①睡眠などの燃料を戻す→②やることを5分で終わる形まで削る→③「いつ・どこで」を先に決める、の順番で効きます。気合を入れる工程はありません。脳は手間と見返りをてんびんにかけて動くので、手間のほうを軽くするのが近道です。

①が詰まっているうちは、②と③の効きが落ちます。睡眠が足りていない人に「小さく分けましょう」と言っても、分ける作業そのものが手間になるから。逆に、燃料が足りているのに動けない人へ「もっと寝ましょう」と言っても、そこは詰まっていません。どれか1つだけやるなら①。ただし①の効果が出るのは早くても明日の朝なので、今夜のうちに③まで書いておくと無駄がありません。

順番 やること 詰まりの正体
① 睡眠を15分だけ前倒しする 燃料が足りない
② やることを動詞1つ・5分に削る 手間が大きく見えている
③ 「もし◯◯したら△△する」と書く 始める合図が無い

この3つを、以下で1つずつ分解します。

「やる気が出ない」と「何もしたくない」は、先に分けたほうが早い

この2つは別物です。「やる気が出ない」は行き先の問題で、「何もしたくない」は燃料の問題。前者は手順で動かせますが、後者に手順を足すと、かえって動けなくなります。分けるのにかかる時間は30秒。次の2つの質問で足ります。

質問1「好きなことなら動けますか」。動画でも、ゲームでも、推しの配信でもかまいません。それで体が動くなら、燃料は残っています。残っているのに動かないのは、目の前の作業の手間が大きく見えているから。質問2「この1週間、朝いちばんの体は、前の週より重いですか」。軽い、または変わらないなら一時的な目減り。重い朝が何週も続いているなら、削るべきは作業ではなく予定のほうです。それでも戻らないときは、この記事の終わりのほうにある相談窓口の項へ先に進んでください。

私は転職の相談を受けてきた期間に、辞めていく人と話す機会が何度もありました。私が会った範囲では、長く話したあとに急に「わかりました、頑張ります」と言う人が目立ちました。あとから聞くと、納得したのではなく、その場を早く終わらせたかった、と言われたことが何度かあります。みんなができることを自分だけできない、と自分を責めている人も多くいました。

そこで分かったのは、その状態の人に要るのは励ましではなく説明だったということ。「なぜこの仕事はこうなっているのか」が分かると、自分を責める場所から抜けていきました。やる気の話もそっくり同じです。励ましは燃えるのが一瞬で、説明は残ります。

やる気が出ないのはなぜ?脳が「もらえるもの」と「かかる手間」をてんびんにかけているから

やる気が出ないのは、脳が「もらえるもの(報酬)」と「かかる手間(コスト)」を毎回てんびんにかけて、行動の価値を計算しているからです※1。手間のほうが重ければ、やる気は下がります。性格ではなく計算の結果なので、計算式のどこを触るかで結果が変わります。

量子科学技術研究開発機構(QST)が2021年7月にPLOS Biologyへ発表した研究では、サルに「合図の色が変わったら、握っているバーを離す」という課題を覚えてもらいました。もらえるジュースは1滴・2滴・4滴・8滴の4段階。そこへ「同じ報酬のためにバーを最大3回離す」「最長で2回分の時間を待つ」という手間を組み合わせ、やる気の動きを調べています※1。

ここで見つかったのが、やる気には2種類あるという話です。ドーパミンを受け取る側にはD1とD2という2つの受け口があり、「ごほうびが多い・すぐもらえる」と期待したときは両方が働きます。ところが「ひと手間かかると分かっていても頑張ろう」と踏ん張るときに要ったのは、D2だけ。手間に耐える側は、別の回路で動いていました※1。

同じ実験で、ジュースを1滴から2滴、4滴、8滴と増やすと、サルが課題を断る割合はきれいに減っていきました※1。ごほうびを足す手が効かないわけではありません。ただ、ごほうびは手に入るのが先で、手間は今この瞬間にかかります。今日の夕方に自分でいじれるのは、手間のほうだけ。この記事が手間側に寄っているのは、そういう理由からです。

やる気が出ない原因①燃料|6時間未満が男性38.5%・女性43.6%

やる気が出ない原因のいちばん下にあるのは睡眠です。厚生労働省が令和5年11月に行った国民健康・栄養調査では、1日の平均睡眠時間が6時間未満の人は男性38.5%、女性43.6%。男性の30〜50歳代と、女性の40〜60歳代では4割を超えていました※2。

同じ調査で、「ここ1か月、睡眠で休養がとれている」と答えた人は74.9%※2。裏を返すと、4人に1人は眠っても休めていません。さらに令和3年のOECD調査では、日本人の平均睡眠時間は調査対象33か国のうちで最も短いという結果が出ています※3。つまり、あなたの気力が落ちているのはあなただけの事情ではなく、この国の標準的な条件のほうが先に傾いています。

ここで「じゃあ週末に寝だめします」と考えたくなります。私もそう思っていました。ところが厚生労働省の睡眠ガイドは、眠りを「ためる」ことはできないと書いています※3。平日6時間以上眠れている人が休日に1時間ほど多く眠るぶんには利点がある一方、平日が6時間未満の人は、休日に寝だめをしても、かえって不利が大きくなるという報告が紹介されています※3。休日の起床時刻が大きくずれると体内時計が混乱し、海外旅行のあとのような時差ぼけが生じる、ともガイドは書いています※3。

対処はひとつ。寝る時刻を15分だけ前へずらす。1時間は続きません。15分なら、動画を1本見送るだけで作れます。成人が目安とすべき睡眠時間は6時間以上、おおよそ6〜8時間とされています※3。今日の自分がそこから何分足りないかを数えるところから始めれば、気合は要りません。眠りの記録が続かないという人は、記録が続く人と続かない人の違いのほうが先に効きます。

やる気が出ない原因②手間が、実物より大きく見えている

やる気が出ない2つ目の原因は、作業が「ひと塊」のまま置かれていることです。「確定申告をやる」「部屋を片づける」「転職活動をする」。どれも動詞が1つに見えて、中身は20工程くらいあります。脳のてんびんは、その20工程ぶんの手間を一度に載せて計算します。

私は投資用不動産の営業を、20社から聞いたことがあります。利回りの話、税金の話、管理の話、出口の話。聞けば聞くほど判断材料は増えたのに、決めるのはどんどん重くなりました。結局、私は買いませんでした。ここ10年の値上がりを見れば、やっておくべきだったかもしれません。あのとき足りなかったのは情報ではなく、「次にやる1つ」を決める作業でした。

対処は、削る方向を変えることです。「やる気を出す」のではなく、手間の見た目を実物まで縮める。 やり方は2つだけ。

  • 動詞を1つにする。「確定申告をやる」ではなく「去年の領収書が入ったフォルダを開く」
  • 5分で終わる形にする。5分で終わらないなら、まだ大きい。もう一段削る

「そんな小さいことをやっても意味がない」と感じたら、それは手間を正しく計算できている証拠ではなく、完成形と比べているだけです。ここで比べる相手を間違えると、やる前から負けます。完成形と比べる癖については、完璧主義の治し方にまとめました。

やる気が出ない原因③「いつやるか」が空欄のまま

3つ目は、始める合図が決まっていないこと。「今日中にやる」は予定ではなく願望です。脳は、合図が来ないかぎり動き出しません。ここを埋めるだけで結果が変わることは、94件の研究をまとめた報告で数字になっています※4。

ニューヨーク大学のゴルヴィツァーとシェフィールド大学のシーランは、「もし◯◯という場面になったら、△△する」という形で前もって決めておく方法(実行意図)の効果を集めました。94件の研究を通した結果は、論文の言葉で「中くらいから大きい効果」。「なかなか取りかかれない」という詰まりにも、全体とほぼ同じ大きさの差が出ました。数字がいちばん大きかったのは、じつは「始めたことを途中で投げ出さない」ほうです※4。やる気を増やす方法ではありません。増えたのは、やると決めたことが実際の行動に変わる率のほうでした。

書き方は次のとおり。主語を自分、場面を具体的に、行動を1つだけ。

  • ×「明日こそ運動する」 → ○「もし朝、歯を磨き終わったら、その場でスクワットを5回する」
  • ×「今週中に書類を出す」 → ○「もし水曜の昼休みになったら、机の上で申請画面を開く」
  • ×「夜はスマホを見ない」 → ○「もし21時になったら、充電器を寝室の外に置く」

場面と行動をくっつけておくと、その場面が来たときに考える工程が消えます。考えなくていいぶん、手間が軽くなる。てんびんの右側を下ろす手として、いちばん安上がりな方法です。

この「もし〜なら」の考え方を一冊まるごと扱っているのがやってのける 意志力を使わずに自分を動かす(ハイディ・グラント・ハルバーソン/大和書房・2013年)です。意志の強さを鍛える話ではなく、意志を使わずに済む置き方の本でした。

やる気が出ない時の対処法5つ|上から順に、1日1つでいい

やる気が出ない時の対処法を、効く順に5つ並べます。上から順にやってください。5つ全部を今日やる必要はありません。1日1つで足ります。むしろ5つ同時に始めるのは、いちばん最初に削るべき「手間の塊」そのものです。

  1. 寝る時刻を15分だけ前倒しする。燃料が戻らないと、残りの4つは効きが落ちます
  2. やることを動詞1つ・5分に削る。「フォルダを開く」まで縮める
  3. 「もし◯◯したら、△△する」を1行だけ書く。紙でもスマホのメモでもかまいません
  4. 気分ではなく回数を記録する。「今日はやれた/やれなかった」の2択だけ。気分を点数にすると、点数を上げることが目的にすり替わります
  5. 迷う材料を増やさない。調べるほど手間は膨らみます。私が20社から話を聞いて決められなかったのと同じこと

何もしたくない日の対処法|「休む」を予定表に書く

何もしたくない日は、休むことを予定表に書いてください。ここが対処法の本体です。「何もできなかった」と「今日は休むと決めた」は、過ごし方が同じでも、翌日の戻りがまるで違います。

理由は1つ。予定に書いた時点で、「休んでいいかどうか」を決める工程が消えるからです。休んでいいのかを一日中決めなおしている日は、寝てもすっきりしません。罪悪感と相談しながら決め続けるのは、それ自体がひと仕事だから。

  • 「今日は18時まで何もしない」と、時刻を入れて書く
  • 家族にも1行だけ共有する(隠すと、隠す手間が増えます)
  • 終わったら、休めたかどうかを○×で1つ記録する

何もしたくない日にイライラが重なっているときは、イライラが抑えられないのはなぜ?のほうを先に読んだほうが早く抜けられます。

休んでも戻らないときは、ここから先は専門家の領分です

休んでも戻らない、生活が回らない、という状態が続くなら、この記事の範囲を超えています。見分け方をここに書くことはしません。素人の判断でいちばん遠回りになる場所だからです。働く人向けの相談窓口は、厚生労働省の「こころの耳」に電話・SNS・メールの一覧がまとまっています※5。

まとめ|やる気が出ないときに要るのは、励ましではなく説明

  • やる気が出ない原因は性格ではなく、脳が手間と見返りをてんびんにかけた計算の結果※1
  • やる気には2種類ある。「ごほうびが欲しい」と「大変だけど頑張ろう」は別の仕組みで動く※1
  • ごほうびを足す手も効く。ただし手に入るのは先で、今日いじれるのは手間のほうだけ
  • 燃料が土台。6時間未満が男性38.5%・女性43.6%、日本はOECD33か国で最短※2※3
  • 寝だめでは取り戻せない。平日を15分ずつ前へずらすほうが確実※3
  • 手間は実物より大きく見える。動詞1つ・5分まで削る
  • 「もし◯◯したら△△する」で合図を作る。94件の研究が、取りかかりにも投げ出さないことにも差が出ると示した※4
  • 何もしたくない日は、休むことを予定に書く。決める工程を消すため

やる気が出ないのは、あなたが怠けているからではありません。てんびんが正直に働いた結果です。だったら、載っている重りを1つ下ろせばいい。

今夜やることは2つだけ。寝る時刻を15分だけ前へ。そのうえで、いま頭の中にある「やらなきゃ」を1つ選んで、「もし◯◯したら、△△する」の形に1行書く。明日の自分は、考えずに動き出せます。

出典

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