投稿の伸びが悪かった夜に、スマホを閉じてからもう一度開いてしまう。上司の「ありがとう」がいつもより短くて、その日の午後がずっと重い。
そういう自分に気づいて、この言葉で検索した人に向けて書きました。
先に結論を置きます。特徴に当てはまっても、直すところは性格ではありません。変えるのは、自分を認めてくれる場所の数のほうです。
承認欲求が強い人の特徴7つ|当てはまっても欠陥ではありません
承認欲求が強い人には、褒められた言葉を何年も覚えている、返信の速さで相手の気持ちを測る、頼まれると断れない、といった共通点があります。どれも「認めてくれる相手が少ない」ときに出てくる反応で、性格の欠点ではありません。まず7つ並べます。
- 褒められた言葉を、何年も覚えている
- 送った連絡の返信が遅いと、内容より先に「嫌われたかな」を考える
- 頼まれごとを断れない。断ったら評価が下がる気がする
- 自分の話をしたあと、しゃべりすぎたと反省する
- 成果が出ても、相手の反応が薄いとうれしくない
- 投稿した日は、数字を何度も見に行ってしまう
- 「どっちでもいいよ」と言われるのが、いちばん困る
こう並べると、面倒くさい人の一覧に見えます。私も自分に当てはめて読んで、少し嫌な気持ちになりました。
ただ、7つをよく見ると、全部が同じ形をしています。自分の価値を、自分の外側にある反応で測っている。それだけです。
7番目が分かりやすいと思います。「どっちでもいいよ」が困るのは、わがままだからではありません。相手の希望という手がかりが消えると、何を基準に選べばいいのか分からなくなるからです。基準を外に置いている人ほど、自由に決めていいと言われた瞬間に固まります。
つまりこの7つは、直すべき欠点のリストではなく、基準の置き場所を教えてくれるサインとして読めます。
承認欲求とは?マズローは「認められたい」を2つに分けていました
承認欲求とは、他人から認められたい、自分で自分を認めたい、という欲求のことです。心理学者マズローは、この欲求を1つの塊ではなく2つに分けました。他人からの評価を求める側と、自分への信頼を求める側です。この2つは、別々に増やせるものです。
マズローが1943年に書いた論文では、承認の欲求(esteem needs)が2つの組に分けられています※1。
- 低いほうの承認:他人からの尊敬。地位、評判、名声、注目、称賛
- 高いほうの承認:自分への信頼。強さ、有能さ、自立、自由
日本語で「承認欲求」と言うとき、指しているのはたいてい前者です。いいねの数、上司の評価、親の期待。全部、他人の手の中にあります。
他人の手の中にあるものだけを追いかけると、自分の機嫌が他人の都合で決まります。 相手が忙しい日は、自分の価値も下がったように感じる。優しい日は、上がったように感じる。1日の中で何度も上下する、という状態です。
後者の承認は、他人がいなくても増やせます。去年できなかったことが今日できた、という事実は、誰の許可も要りません。
承認欲求そのものは、なくす対象ではありません。マズローは、この欲求が満たされると自信や有能感につながる、と書いています。問題は欲求の強さではなく、2つのうち片方しか使っていないことのほうです。
承認欲求と自己顕示欲・自己肯定感は、どこが違うのか
承認欲求は「認められたい」という気持ち、自己顕示欲は「目立ちたい」という行動、自己肯定感は「自分は自分でいい」という土台です。3つは別物で、承認欲求が強いからといって自己顕示欲が強いわけではありません。むしろ目立つのが苦手な人にも、承認欲求は同じくらいあります。
| 言葉 | 中身 | 向いている方向 |
|---|---|---|
| 承認欲求 | 認められたい、という気持ち | 他人と、自分の両方 |
| 自己顕示欲 | 目立ちたい、注目されたい、という行動 | 他人だけ |
| 自己肯定感 | 自分は自分でいい、という土台 | 自分だけ |
同じ「認められたい」でも、出方は正反対になります。目立って認められにいく人もいれば、目立たないことで嫌われないようにする人もいます。後者は自己顕示欲の話ではありません。それでも中身は同じ承認欲求です。断れない、嫌われるのが怖い、意見を言えない。これらは全部、承認欲求が静かな出方をしている姿です。
自己肯定感との関係も、よく混ざります。自己肯定感が低いから承認欲求が強くなる、という説明を見かけますが、順番は逆にも回ります。他人の反応でしか自分を測れない状態が続くと、自分で自分を測る筋肉が使われないまま弱っていく。 使わない側が弱るのは、体と同じです。
承認欲求が強い原因は性格ではなく、認められる場所の数です
承認欲求が強くなる原因は、その人の性格や育ちだけではありません。国の調査を見ると、日本には「ありのままでいられる場所」はあっても、「意見や希望を受け入れてくれる場所」が極端に少ない、という形が出ています。認められる場所が1か所しかなければ、そこでの反応に全体重が乗ります。
こども家庭庁が令和5年度に行った、日本を含む5か国の13歳から29歳への調査があります※2。「自分の部屋」がどんな場所かを聞いた結果を並べます。
| 国 | ありのままでいられる | 意見や希望を受け入れてくれる |
|---|---|---|
| 日本 | 67.0% | 11.4% |
| アメリカ | 67.5% | 28.1% |
| ドイツ | 57.5% | 39.0% |
| フランス | 67.0% | 26.8% |
| スウェーデン | 57.3% | 33.0% |
左の列は、日本が5か国で最も高い数字です。ところが右の列だけ、日本は11.4%まで落ちます。ドイツの3割にも届きません。
これだけ見ると、日本の家は冷たいのか、と言いたくなります。私も最初はそう読みました。ただ、同じ調査で「自分の親から愛されていると思う」と答えた日本の若者は80.8%です。愛情が足りないという話ではありません。
足りているのは休む機能で、足りていないのは受け止める機能です。 ひとりになれる部屋はある。でも、そこで自分の希望を言って受け止めてもらった経験は少ない。「あてはまる場所はない、わからない」と答えた割合も、日本は16.2%で、アメリカの4.0%の4倍でした。
家庭についても同じ形が出ています。「意見や希望を受け入れてくれる」と答えた割合は、日本が32.4%、ドイツが48.1%。
認められる場所が職場ひとつしかない人は、上司の機嫌が自分の価値になります。逃げ場がないから、反応を確かめずにいられません。承認欲求が強く見えている状態は、性格の濃さではなく、置かれている場所の数の少なさとして説明がつきます。
同じ調査では、13歳から29歳の76.4%が「自分の将来のこと」を心配だと答えました。性格のことは52.0%、容姿のことは54.0%。心配ごとを抱えたまま、それを置ける場所が1つしかない。その組み合わせが、しんどさの正体だと見ています。
SNSが承認欲求を強くしている、は半分だけ本当です
SNSが承認欲求を煽っている、という説明はよく見ます。ただ、国の統計を見ると、SNSで自分を発信している人は実は少数派です。多くの人は、もともとの知人との連絡のために使っています。数字を追いかけて疲れている人は、全体の1割の側に立っています。
総務省の令和6年通信利用動向調査で、SNSの利用目的を聞いた結果です※3。回答した2万3,275人のうち、多い順に並びます。
- 従来からの知人とのコミュニケーションのため 87.2%
- 知りたいことについて情報を探すため 63.6%
- ひまつぶしのため 35.9%
- 災害発生時の情報収集・発信のため 26.4%
- 自分の情報や作品などの発信のため 11.9%
発信のために使っている人は、11.9%しかいません。20代でも20.8%です。9割近い人は、見る側と、知り合いに連絡する側です。
ここが面白いところだと思っています。タイムラインは、発信している1割の人の投稿でできている。 その1割の中でも、伸びた投稿だけが優先して表示される形です。私たちは、母集団の1割の、そのまた上澄みと、自分の日常を並べています。
しかも比べる相手は、こちらが眠っている間にも増えます。10年前なら同じ学校と同じ会社の人が比較対象でした。いまは13歳から19歳の88.1%、20代の92.6%がSNSを使っています。母集団だけが桁違いに増えました。
SNSが承認欲求を作ったわけではありません。作ったのは、比べる相手の数のほうです。この話は人と比べてしまう理由の記事にも書きました。
承認欲求が強い人に、褒め言葉が効かなかった話
転職の相談を受けてきて、承認欲求と正面から向き合う場面が何度もありました。そこで分かったのは、認められたがっている人に褒め言葉を渡しても、ほとんど効かないことです。効いたのは、褒めることではなく説明することでした。
相談の場で「この人は近いうちに辞める」と分かるサインが、3つあります。
- 表情と目線に覇気がない
- みんなができることが自分だけできない、と自分を責めている
- 長く話したあと、急に「わかりました、頑張ります」と言う
3つ目が、いちばん気になっていました。あれは納得した返事ではありません。その場を終わらせたくて言っています。 相手の期待に合わせて、いちばん早く場が収まる言葉を出している。承認欲求の話でいえば、目の前の1人に認められることを最優先にした結果です。
そして2つ目が、いちばん多い。「自分だけできない」と思い込んでいる人に、私は最初、励ましの言葉をかけていました。あなたはよくやっている、そんなことはない。ほとんど届きません。その場では表情が少しゆるむものの、次に会うと元に戻っています。
届いたのは、別のものでした。「なぜこの仕事はこうなっているのか」を説明したときです。
「自分だけできない」と思い込んでいる人ほど、実は仕組みを教えられていないだけ。なぜこの仕事はこういう形になっているのか、なぜここでこの数字を求められるのか。そこを順番に話していくと、相手の顔が変わります。
理由は、あとから分かりました。褒め言葉は、渡した人の評価です。受け取った側は、次にまたその人からもらわないと保てません。説明は、渡した人がいなくなっても残ります。 自分で自分の状況を読めるようになるからです。
マズローの分け方でいえば、褒め言葉は低いほうの承認、説明は高いほうの承認に届いていた、という話になります。承認欲求が強い人に足りていないのは、褒め言葉の量ではなく、自分の現在地を自分で説明できる材料のほうでした。
承認欲求をなくす方法を探すより、認められる場所を2つ目にする
承認欲求をなくす方法は、探しても見つかりません。マズローが人間の基本的な欲求として並べたものなので、消すと元気もいっしょに消えます。かわりに効くのは、認めてもらう相手を1人から増やすことです。今日からできる形にして3つ書きます。
1つ目。今週、自分がどこで反応を確かめたかを数える。
投稿の数字を見た回数、上司の表情をうかがった回数、既読を確認した回数。数えるだけで、何もしません。気づくのは、確かめに行っている先が、たいてい1か所か2か所しかないこと。全体重が乗っている場所が、目で見えるようになります。
2つ目。評価されない場所を、意図的に1つ持つ。
上手い下手を誰も見ていない場所です。読んだ本の記録でも、朝の散歩の距離でもかまいません。条件は1つだけ、人に見せないこと。見せた瞬間に、他人の反応がまた基準に戻ってしまうからです。前に書いた自分軸の記事は、この基準の置き換えを扱っています。
3つ目。褒め言葉ではなく、説明をもらいにいく。
「私はどうでしたか」ではなく「これはなぜこうなっているんですか」と聞く。前者は相手の評価が返ってきて、その場で消えます。後者は仕組みが返ってきて、あとに残ります。相談の現場で効いたのは、こちらでした。
ここまで書いてきた考え方に近い本として、アドラー心理学を対話形式でまとめた嫌われる勇気があります。あの本は「承認欲求を否定せよ」という、かなり強い立場を取ります。私はそこまで振り切れませんでした。ただ、認められたいという気持ちを、他人ではなく自分の側に置き直すという一点は、この記事と同じ方向を向いています。
承認欲求が強いことは、直す対象ではありません。認めてほしいと思えるのは、人の中で生きている証拠です。変えるのは、その気持ちの向き先を1か所に集中させないこと。それだけで、上司の返事が短かった日の重さは、確実に軽くなります。
出典
- ※1 A. H. Maslow「A Theory of Human Motivation」(Psychological Review、1943年)。承認の欲求を2つの組に分ける記述。原典の全文はこちらでは開けなかったため、書誌情報のみを記載しています
- ※2 我が国と諸外国のこどもと若者の意識に関する調査(令和5年度)(こども家庭庁)。日本・アメリカ・ドイツ・フランス・スウェーデンの13歳から29歳が対象。令和5年11月から12月に実施。日本の有効回答は1,089人
- ※3 令和6年通信利用動向調査 報告書(世帯編)(総務省)。SNSの利用目的は複数回答で回答者2万3,275人、SNS利用率は回答者3万286人
Amazonのアソシエイトとして、カラフル坂は適格販売により収入を得ています。

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