イライラが抑えられないのはなぜ?「発散」が逆効果になる理由と、154の研究が示した下げ方

氣分を上げる

「なんでこんなことで怒ってるんだろう」と思いながら、止まらない。

信号が赤になっただけ。返信が一行短かっただけ。洗い物が流しに置きっぱなしだっただけ。あとで振り返ると小さなことなのに、そのときの自分は本気で腹を立てていて、しかもそれを止められない。

検索すると、たいてい同じ答えが並びます。深呼吸する。カラオケで叫ぶ。運動して汗を流す。日光を浴びる。私も全部やりました。効いた日もあれば、まったく効かない日もありました。

その差がどこから来るのかが、2024年に出たある研究でかなりはっきりしました。効く方法と効かない方法は、はじめから2つのグループに分かれていたという話です。

イライラが抑えられないのはなぜ?性格ではなく「体の高ぶり」の問題

イライラが抑えられないとき、原因は「気が短い性格」ではなく、そのとき体が高ぶっているかどうかで決まります。怒りは「体の高ぶり」と「頭の中の意味づけ」の2つでできていて、どちらかが乗っている限り消えません。逆に言えば、片方を下げれば温度は下がります。

ここが、この記事でいちばん伝えたいところです。

イライラを止められない自分を責める人はとても多い。私もそうでした。けれど怒りは、意志の力で押さえつける対象ではありません。高ぶった体と、頭の中で回り続けている再生を、それぞれ別々に下げていく作業です。

この整理は、心理学で60年以上使われてきた「情動の2要因理論」(シャクター=シンガー)という考え方から来ています。感情は、体の高ぶりと、それを何と名づけるかの掛け算でできている、という見方です。2024年に出た大規模な分析も、この理論を軸にして研究を選び、並べ直しました※1。

だから対処法も2つに分かれます。体の高ぶりを下げるもの。頭の中の再生を止めるもの。この2つ以外は、やっても温度が下がりません。

イライラ解消法が効く日と効かない日を分ける「上げる活動」と「下げる活動」

2024年3月、154本の研究・のべ10,189人のデータをまとめた分析が発表されました。結論は明快で、怒りを下げたのは「体の高ぶりを下げる活動」だけ。「高ぶりを上げる活動」は怒りを下げず、むしろ強めるものもありました※1。

並べると、こう分かれます。

下げる活動(怒りが下がった) 上げる活動(下がらない・強まる)
呼吸・体 深呼吸(とくに腹式呼吸)、漸進的筋弛緩法 サンドバッグを叩く
動き ゆっくりした流れのヨガ ジョギング、サイクリング
頭の使い方 マインドフルネス、瞑想
その場の一手 タイムアウト(その場をいったん離れる)

左の列だけが、154本の研究をまとめた分析で「効いた」とされたものです。

研究を率いたオハイオ州立大学のチームは、いちばん怒りを悪化させやすかったのがジョギングだったと報告しています※1。走ると気持ちが晴れる、という感覚を持っている人には、意外な結果だと思います。

世の中の「イライラ解消法10選」には、この2つが混ざったまま並んでいます。 深呼吸とカラオケと運動が同じリストに載っていれば、読んだ人はどれを選んでも同じだと考えます。でも中身は逆向きでした。効いた日と効かなかった日の差は、その日たまたまどちら側を引いたか、だったわけです。

おもしろい例外もありました。体育の授業や球技は、体を動かすのに「下げる側」に入っていたそうです※1。研究チームは、遊びの要素が高ぶりを下げたのではないかと見ています。同じ運動でも、競い合って息を上げるのか、笑いながら動くのかで向きが変わるということになります。

見分け方は「息が上がるかどうか」

迷ったときの目安は単純で、やったあとに息が上がっていたら、それは上げる側です。

イライラしているときの体は、すでに心拍も呼吸も上がっています。そこへ息が上がる活動を足せば、体はさらに戦闘の構えに入ります。頭の中に相手の顔が残ったままなら、その高ぶりは「やっぱり自分は怒っているんだ」という確認に使われてしまう。

イライラを発散すると燃える|600人の実験で分かったこと

「発散すればすっきりする」という考え方は、実験で何度も否定されています。600人を対象にした2002年の研究では、サンドバッグを叩いた人のほうが、何もしなかった人より怒りも攻撃性も高くなりました。いちばん穏やかだったのは、何もしなかったグループです※2。

実験の中身はこうです。

参加した大学生600人(男女300人ずつ)は、まず自分が書いた文章を別の参加者にこきおろされます。実際にはそんな相手はいなくて、全員が同じように怒らされる仕掛けでした。そのうえで、3つのグループに分けられます。

  1. 反芻グループ:サンドバッグを叩く。叩きながら、自分をけなした相手のことを考える
  2. 気そらしグループ:サンドバッグを叩く。叩きながら、体力づくりのことを考える
  3. 何もしないグループ:サンドバッグなし

結果は、反芻グループがいちばん怒っていました。何もしなかったグループとの差は効果量で0.31、気そらしグループとの差は0.22。そのあと相手に大きな音を浴びせられる場面でも、反芻グループがいちばん強く浴びせています※2。

注目したいのは、いちばん穏やかだったのが「何もしなかった人たち」だったこと。 この人たちは怒りを鎮める努力を一切していません。それでも、叩いた人たちより落ち着いていました。

論文の言葉を借りると、怒りを発散して減らそうとするのは「火を消すためにガソリンを使うようなもの」です※2。

もうひとつ、この実験には見落とされがちな数字があります。叩いた回数は、体力づくりを考えていたグループのほうが多かった(平均127.5回 対 112.2回)。つまり、より多く叩いた人のほうが怒っていなかった。 怒りを決めたのは叩いた回数ではなく、叩きながら何を考えていたかでした※2。

イライラの6秒ルールは「消す」ためのものではない

「怒りのピークは6秒」という話を聞いたことがある人は多いと思います。日本アンガーマネジメント協会の説明では、6秒ルールとは「怒りを感じたら理性が介入する迄の6秒間『反射』をせずにやり過ごすこと」※3。つまり怒りが消える6秒ではなく、反射しない6秒です。

ここを取り違えると、6秒が効かなくなります。

6秒じっと待つあいだ、頭の中で相手の言い方を再生していたら、それは前の章でいう反芻そのものです。600人の実験が示したとおり、再生しながら待つ時間は怒りを燃やす側に回ります。数えても収まらないのは、数え方が足りないからではなく、数えている中身が反芻だったからです。

6秒の使い道は、次の2つに絞ってください。

  • その場から離れる。 前章の「タイムアウト」にあたります。トイレでも廊下でもかまいません
  • 息を長く吐く。 吸う時間より吐く時間を長くする。4つ数えて吸い、8つ数えて吐くくらいで十分です

なお、「6秒で怒りが消える」という数字そのものの一次資料は、今回こちらでは見つけられませんでした【未確認】。 協会自身も、一度きりの講座で身につくものではなく、毎日の訓練が要ると書いています※3。6秒は科学の法則というより、とっさに使える合図として広まったもの。そう受け取るほうが正確です。

イライラが止まらない日は、睡眠を疑う

その日だけ異常に怒りっぽい、という日があります。アイオワ州立大学の実験では、2晩の睡眠を約4時間半に削られた人は、7時間近く眠った人より明らかに怒りが強くなりました。しかもその効果の半分は、本人の「眠い」という感覚で説明がつきました※4。

実験では、参加者を「いつもどおり眠る」か「睡眠を削る」かに無作為に分けています。削られた側は2晩で平均4時間半ほど、いつもどおりの側は7時間近く。そのあと不快な騒音を流しながら作業をさせると、削られた側は怒りが強く出ました。

さらに興味深いのは、慣れが効かなくなったことです。ふつう、うるさい環境にはだんだん慣れていくものです。ところが睡眠を削られた人は、時間がたっても慣れるどころか、いら立ちが増していきました※4。

「眠気が実験効果の50%を説明した」という数字も出ています※4。眠いと自覚しているとき、自分は怒りやすい状態にいる。その自覚だけで、一手先に動けます。

ここに日本の数字を重ねてみると、これは他人事ではありません。厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」は、成人の適正な睡眠時間をおおよそ6〜8時間とし、少なくとも6時間以上を確保するよう勧めています。いっぽう令和元年の国民健康・栄養調査では、1日の平均睡眠時間が6時間未満の人が男性37.5%、女性40.6%。働く世代(20〜59歳)に絞ると、6時間未満が約35〜50%を占めていました※5。

【推測/確信度:中】日本の働く世代の3〜5割は、怒りっぽくなる条件を毎晩自分でそろえている計算になります。 睡眠の調査と怒りの実験は別々のものなので、この2つを直接つないだ研究をこちらで確認したわけではありません。ただ、順番として「眠りを削る→怒りやすくなる」は実験で確かめられています。

私自身、朝、家を出る前のイライラを手放したくて「実況」を試した記録を読み返すと、荒れている日はたいてい前の晩が短い日でした。

イライラを下げる3つの手順|その場・その日・その週

やることを時間の長さで3つに分けると、迷いません。その場は「息を長く吐いて、離れる」。その日は「再生を止める」。その週は「眠る時間を先に決める」。上げる活動をひとつも混ぜないのが、この3つの共通点です。

その場(6秒〜3分)

  1. 息を長く吐く。 4つ数えて吸い、8つ数えて吐く。これを3回
  2. その場を離れる。 席を立つ、水を汲みに行く、窓の外を見る
  3. 言い返す言葉を、頭の中で組み立てない。 ここが再生の入口です

その日(10分〜1時間)

怒った出来事を「もう考えない」と決めても、たいてい失敗します。頭は「考えるな」を実行できません。代わりに、考える形を変えます。

私が続けているのは実況です。「いま、腹が立っている」「相手の言い方が引っかかっている」と、自分の状態を短く言葉にしていく。物語にせず、状態だけを書く。イライラの実況を1日やってみた記録では、1日中妄想の中で怒っていた自分がそのまま残っていて、読み返すと笑えます。

実況が反芻と違うのは、相手ではなく自分を見ているところです。相手の顔を思い浮かべた瞬間に再生が始まるので、視点を自分側に戻す作業だと考えています。

その週(生活の設計)

この記事で触れた「6秒」を一冊まるごと扱っているのが、アンガーマネジメント入門(安藤俊介/朝日新聞出版/2016年)です。6秒をどう使うか、怒りの記録をどう取るかが具体的に書かれています。

20年イライラしていた話|怒りが下がったのは、構造を知った日だった

ここからは私の話です。ひとつの出来事に20年以上腹を立て続けて、ある日ふっと温度が下がりました。下がった理由は、許したからでも、忘れたからでもありません。その出来事が起きる仕組みを知ったからでした。

保険にずっと入っていて、担当者が10人以上代わりました。

見てきた形は、だいたい同じです。入社した人は、まず家族や親戚や友人に声をかける。その輪の外で契約が取れず、半年ほどで辞めていく。腹が立ったのは辞めること自体ではなく、辞める前に連絡が来ないことでした。その人のために入った契約なのに、気づいたらいない。本来なら、後任と一緒に挨拶に来るところだと思っていました。

この話、思い出すたびに腹が立っていました。年に何度か思い出しては、頭の中で「ふつう連絡するだろう」と言い返していた。いま振り返ると、あれが反芻です。 出来事は一度きりなのに、私は20年かけて何十回も再生していました。

温度が下がったのは、この仕事の手数料がどこから出ていて、なぜ最初は身内から始まる設計になるのかを知ったときです。入る人が悪いのではなく、入る前にその設計を説明される機会が誰にもなかった。25歳のころの自分が何も知らなかったことを思えば、責める気持ちは残りませんでした。

ついでに、長く続いている担当者にはシングルマザーの方が多かった。子育て支援の福利厚生が手厚く、続けやすい設計になっていると聞きました。同じ仕組みの中に、続けられる人がちゃんといる。 その事実を知ったことも、温度を下げました。

心理学ではこれを「意味づけの変更」と呼びます。前に書いた人と比べてしまう自分を責めなくていい理由とも重なる話で、出来事は変えられないのに、温度だけが変わるという経験でした。

深呼吸で下げられるのは体の側。意味づけを変えて下がるのは、頭の側。2つあると知っていれば、その日に効くほうを選べます。

イライラが何をしても収まらないときの目安

ここまでの方法は、日常のいら立ちを想定しています。眠れない日が2週間以上続く、体に症状が出ている、仕事や家事が手につかない。このどれかに当てはまるなら、対処法を探すより先に、医療機関に相談してください。

私は医師ではないので、ここから先の判断はできません。ただ、順番として「眠りが崩れる → 怒りっぽくなる」のほうが実験で確かめられています※4。怒りを何とかしようとするより、眠りを立て直すほうが早いことがあります。

眠れない夜そのものについては、長期休暇が終わって眠れない夜に書いた記事にまとめてあります。

自分の状態を細かく見ていくうちに、自己評価まで下がっていくことがある。そこまで来ているなら、自己肯定感を上げる方法のほうが近いはずです。

まとめ|イライラは消す対象ではなく、温度を下げる対象

  • 効く方法と効かない方法は、はじめから2つに分かれている。 体の高ぶりを下げるものだけが効く(154研究・10,189人※1)
  • 叩く・走る・叫ぶは上げる側。 600人の実験では、何もしなかった人がいちばん穏やかだった※2
  • 6秒は消す時間ではなく、反射しない時間。 数えながら再生していたら燃える※3
  • 今日だけ荒れている日は、眠りを疑う。 4時間半と7時間で怒りが変わる※4
  • 意味づけが変わると、20年分の怒りでも温度が下がる

イライラした自分を責める必要はありません。責めても高ぶりは下がらないからです。下がるのは、息を長く吐いたときと、頭の中の再生が止まったときだけ。

今日できる最小の一手は、吸うより長く吐く。それだけです。

出典

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