自己肯定感を上げる方法|「自分をほめる」が効かない人へ、研究が示す3つの順番

氣分を上げる

鏡を見て、ため息が出る。ほめられても「そんなことないです」と口が先に動く。

私も同じでした。自己肯定感が低いせいだと思って、寝る前に自分をほめる練習をしてみた。「今日できたこと」を三つ書く日記も始めた。三日で止まって、止まった自分にまた落ち込みました。

この記事に書くのは、その逆の話です。自己肯定感は「上げにいく」と、かえって逃げる。そういう研究が積み上がっています。国の調査と海外の研究の数字を並べながら、今日から試せる順番まで書きます。

「自己肯定感を上げる方法」で自分をほめても効かないのはなぜ?

自分をほめても効かないのは、そのほめ言葉が行動と切り離されているからです。自己肯定感は行動の結果として後からついてくる感覚なので、先に配ってしまうと、行動する理由のほうが先に消えます。アメリカの大学で行われた実験では、成績が振るわない学生に自己肯定感を支えるメールを送った群だけ、次の試験の点が下がりました※1。

実験の中身は、こうです。ある授業の最初の試験でC・D・Fだった学生に、担当教授が毎週メールを送る。全員に共通して、その週の復習問題が1問入っています。ちがうのはそこから先で、学生はくじ引きで三つの群に分けられました。

  • 復習問題だけを受け取る群
  • 「結果は自分の取り組み方しだいだ」と、自分で握れる感覚を後押しする文が足された群
  • 「あなた自身には価値がある」と、自己肯定感を支える文が足された群

C評価の学生には、どの群でも差が出ていません。差が出たのはDとFの学生でした。自己肯定感を支える文を受け取ったDとFの学生だけが、その後の試験で他の群よりはっきり低い点を取っています※1。

研究者たちの読み方は、身も蓋もないものでした。人はふだん、自分を良く思えるようになるために働いている。その良い気分が働きと関係なく配られると、働く理由のほうが消える※1。

ほめる練習が三日で止まるのは、意志の弱さではありません。ほめ言葉の宛先が、まだ何もしていない自分になっているという、順番の問題です。

なおこの実験は1999年にアメリカ心理学会の年次大会で発表されたもので、学術誌の査読を通った論文ではない点は先に書いておきます。

自己肯定感とは?成績との関係は、ばらつきの4〜7%だけでした

自己肯定感とは、自分の価値についての全体的な感じ方を指します。心理学では自尊感情(self-esteem)と呼ばれてきました。その高さが人生の出来ばえをどれくらい説明するのか。答えは「思っているよりずっと小さい」でした。

2003年に、心理学者4人が自尊感情の研究を総ざらいした報告が出ています※1。学校の成績との関係を調べた過去の統合分析では、相関の平均は .21〜.26。これは成績のばらつきのうち、自尊感情で説明がつく分は4〜7%という意味です(0.21×0.21で4.4%、0.26×0.26で6.8%)。残りの93%以上は、別のところから来ている。イギリスの3,001人を対象にした新しい調査では、相関はさらに弱く、平均で .12 でした※1。

そのうえ、向きの問題があります。学期の成績を取ったあとに自尊感情を測った研究では、成績が先で、自尊感情が後という順番のほうが数字とよく合いました※1。因果の道筋を統計でたどっても、自尊感情から成績へ直接つながる道は見つかっていません。

総説の結論は一文です。自尊感情は、それ自体を目的にするものではない。良い行いや達成に結びつけて使うぶんには役に立つけれど、誰にでも無条件に配っても効き目は見つからなかった、と※1。

ここを読んだとき、私は少し肩の力が抜けました。上がらなかったのは努力不足ではなく、そもそも直接は上げられない種類のものだったからです。

日本人の自己肯定感は低いまま?最新の国の調査では12.3ポイント上がっています

「日本人は自己肯定感が低い」は、もう何年も繰り返されてきた話です。ところが、国が同じ質問で追いかけた最新の数字を見ると、絵が変わります。

こども家庭庁が令和5年11月から12月に行った調査で、日本の13歳から29歳の1,089人に「私は、自分自身に満足している」が当てはまるかを聞いています※2。「そう思う」と「どちらかといえばそう思う」を合わせた割合は57.4%。前回の平成30年度と比べると12.3ポイント高い数字でした※2(前回は45.1%だった、という計算になります)。

同じ調査では、ほかの項目も同じ向きに動いています。「自分の考えをはっきり相手に伝えることができる」は57.1%で10.8ポイントの上昇、「自分は役に立たないと強く感じる」は46.1%で5.7ポイントの低下でした※2。自分に満足している人が増え、自分は役に立たないと感じる人が減っている。ちなみにいちばん高かった項目は「自分の親(保護者)から愛されていると思う」で80.8%でした※2。

【推測/確信度:中】「日本人は自己肯定感が低い」と言われ続けること自体が、読んだ人の自己評価を下へ引っぱっているのではないか。私はそこを疑っています。この調査だけで因果までは分かりません。ただ、自分を低いと決めてかかるときの材料が、実際の数字より古いことはある。そこは覚えておいて損がないところです。

自己肯定感を上げるより先に変えるのは、自分への声のかけ方

では何を変えるか。研究が代わりに差し出しているのは、セルフ・コンパッションという考え方です。日本語にすると「自分への思いやり」。失敗した友だちにかける言葉を、そのまま自分にもかける態度を指します。

テキサス大学のクリスティン・ネフらが2009年に発表した研究では、2,187人を対象に、自尊感情とセルフ・コンパッションを並べて比べました※3。結果はきれいに分かれています。

  • 幸福感・楽観性・気分の良さを予測する力は、二つともほぼ同じ(165人を対象にした2つ目の研究)
  • ただしセルフ・コンパッションのほうが、自分の価値の感じ方が安定していた。特定の結果に左右されにくい
  • 人との比較、人目の意識、自分についての反芻、怒りとの結びつきは、セルフ・コンパッションのほうが弱い
  • そして自尊感情はナルシシズムと正の関係があったのに、セルフ・コンパッションには無かった

同じくらい幸せを予測するのに、ついてくるものだけが違う。ここが、この研究でいちばん驚いたところです。

セルフ・コンパッションは、三つの部品でできています※3。

  1. 自分への優しさ … 失敗したときに、自分を切りつける言葉ではなく、支える言葉を向ける
  2. 共通の人間性 … 不完全さは人間の条件であって、自分だけの欠陥ではないと捉え直す
  3. マインドフルネス … つらい考えや感情を、飲み込まれもせず、押しのけもせず、そのまま眺める

この三つを組み立てたネフ本人の本が、日本語で出ています。セルフ・コンパッション 有効性が実証された自分に優しくする力(金剛出版、2021年)は、この章で触れた「自尊感情ではなく自分への思いやりを土台に置く」という論点を、測り方から実践まで一冊かけて扱っている本です。

自己肯定感を上げる方法の代わりに、今日からできる3つの手順

セルフ・コンパッションは、気持ちの持ちようの話で終わりません。訓練で伸ばせることが、くじ引きで群を分ける比較試験で確かめられています。

2019年に、27件のランダム化比較試験を集めた統合分析が出ました※4。参加者をくじ引きで「やる群」と「やらない群」に分ける調べ方なので、思い込みの影響を落とせます。結果は、調べた11種類の項目すべてで改善していました。

何が変わったか 効果の大きさ(Hedges のg)
反芻(同じことを何度も考え続ける) 1.37
セルフ・コンパッション 0.75
ストレス 0.67
抑うつ 0.66
マインドフルネス 0.62
不安 0.57
自己批判 0.56

効果の大きさは、0.2で小さい、0.5で中くらい、0.8を超えると大きい、というのが心理学で広く使われている目安です。

いちばん動いたのが反芻の1.37でした。「あのとき、ああ言わなければ」を頭の中で何度も再生してしまう、あれです。自分を好きになる訓練ではなく、同じ場面を再生する回数が減るほうに効いている。

追いかけ調査では、抑うつの改善は終了後もさらに伸びていました。それと、一人で取り組むより集団で取り組んだほうが効果が強いという結果も出ています※4。

ここから逆算して、私が続けている手順は三つです。

  1. 失敗した直後の一言を、置き換える。 「またダメだった」を「同じ状況の友だちに、自分はなんて言うだろう」に替える。言い換える先を自分で考えないのがコツで、友だちを一人思い浮かべ、その人にかける言葉をそのまま借ります
  2. 「自分だけ」を疑う。 落ち込んだときに、「これは自分の欠陥か、人間なら誰でも通るところか」と口に出して聞く。共通の人間性の部品が、ここに当たります
  3. 再生回数を数える。 同じ場面を思い出したら、指を折って数える。止めようとせず、数えるだけ。いちばん動いたのが反芻だったので、まず見える形にするところから始めました

三つとも、自分をほめていません。ほめずに、自分の扱い方だけを変えています。

なお、眠れない・食べられないといった状態が続いていたり、日常が回らないほどつらいときは、この記事の工夫より先に、医療機関や公的な相談窓口を頼ってください。ここに書いたのは、考え方の癖に対する日常の工夫です。

「自分だけできない」と思うとき、自己肯定感に必要なのは励ましではなく説明

私は以前、仕事の相談を受ける側にいました。面談を重ねていると、この人はもうすぐ辞めるな、と分かるサインが三つ見えてきます。

  1. 表情と目線に覇気がない
  2. 「みんなができることが、自分だけできない」と自分を責めている
  3. 長く話したあとで、急に「わかりました、頑張ります」と言う

三つ目は納得したのではなく、その場を終わらせたくて言っています。そして二つ目が、いちばん多かった。「自分だけできない」と言う人ほど、実は仕組みを教えられていないだけでした。なぜこの仕事はこの順番なのか、この数字はどこから来ているのか。そこが抜けたまま「できるようになれ」とだけ言われている。

当時の私は励ましていました。「大丈夫、できるようになるよ」と。効きませんでした。効いたのは、仕組みの説明のほうです。「この作業が難しいのは、あなたの飲み込みが遅いからではなくて、判断の材料が一つ渡されていないからです」と言うと、その場で表情が変わる。

冒頭の実験を読んだとき、私はこの顔を思い出しました。自己肯定感を足した群だけが下がり、自分で握れる感覚を足した群は下がらなかった。現場で起きていたことと、同じ形でした。

「自分だけできない」と感じているなら、まず疑うのは自分の出来ではありません。説明が抜けている場所のほうです。

人と比べて落ち込む癖のほうが強いと感じるなら、比べてしまうのはなぜ?人と比べる自分を責めなくていい理由と対処法が近い話をしています。ほめられたい気持ちが前に出て苦しいときは、承認欲求が強い人の特徴7つのほうかもしれません。

自己肯定感は、上げようとするほど手からこぼれていきます。上げるのをやめて、扱い方を変える。そのほうが、あとに残ります。

出典

Amazonのアソシエイトとして、カラフル坂は適格販売により収入を得ています。

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