親に、エンディングノートを書いてもらいたい。
そう思ったとき、最初に浮かんだのは「ってかエンディングノートって何?遺言とは違うの?」という疑問でした。恥ずかしながら、私はこの2つの違いを知りませんでした。
周りで書いた人を見たこともありません。聞かれて答えたのは「自分の周りではない」の一言です。
それでも、親が元気なうちに、どこにどんな資産があるのか、相続で揉める可能性がある情報は今のうちに欲しい。そう思って調べ始めました。
この記事は、親にエンディングノートを書いてほしい子の側から、
- エンディングノートと遺言の違い
- 親に書いてほしいこと
- 紙とアプリ、どちらを選ぶか
- 紙のノートの選び方
を、民法の条文と法務省の案内を読みながら整理した記録です。
エンディングノートとは?遺言とは違うの?
エンディングノートは、法律の力が無い「家族に伝えたいことのメモ帳」です。 財産のありか、医療や介護の希望、葬儀の希望、家族への言葉などを、自由な形で書いておけます。一方の遺言は、民法が決めた形で書いたときだけ、財産の分け方などに法律の力が生まれます。似ているようで、役割がまったく違います。
私が最初につまずいたのが、ここでした。
「エンディングノートを書いておけば、遺言の代わりになるのでは?」と、なんとなく思っていたのです。
民法を読むと、遺言についてはこう書かれています。
遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。(民法960条)※1
つまり、遺言は「民法が決めた書き方」でなければ、遺言として扱われません。
エンディングノートには、そうした決まりがありません。市販のノートでも、手帳でも、大学ノートでもかまいません。書く順番も、書く量も自由です。その代わり、ノートに「長男に家を」と書いても、それだけで財産の分け方が決まるわけではありません。
【推測】ただし、法律の力が無いからといって、意味が無いわけではありません。遺言に書くのは主に「財産を誰に」の部分です。一方で、通帳がどこにあるか、どの銀行に口座があるか、延命治療をどうしたいかといった「家族が困ること」を書きやすいのは、エンディングノートのほう。
エンディングノートと遺言の違いを表で比べると?

エンディングノートと遺言の違いは「法律の力」「書き方の決まり」「費用」の3点です。 エンディングノートは決まりが無く、かかるのはノート代だけ。遺言は、自筆証書・公正証書・秘密証書の3種類のどれかで書く必要があります。15歳から書けて、いつでも書き直せます。
民法の条文で確かめた違いを、表にまとめます。
| 比べること | エンディングノート | 遺言 |
|---|---|---|
| 法律の力 | 無い | 決まった形で書けば、ある |
| 書き方の決まり | 無い(自由) | 民法の方式に従う※1 |
| 種類 | 市販のノート・手帳・自作など | 自筆証書・公正証書・秘密証書の3種類※1 |
| 書ける年齢 | 決まりは無い | 15歳から※1 |
| 書ける中身 | 何でも(財産・医療・葬儀・言葉など) | 主に財産の分け方など |
| 書き直し | いつでも自由 | いつでもできる。ただし遺言の方式に従う※1 |
| 費用 | ノート代だけ | 自筆なら紙代。法務局に預けるなら1通3,900円※2 |
民法967条には、遺言は「自筆証書、公正証書又は秘密証書によってしなければならない」とあります※1。3つの違いは、次のとおりです。
- 自筆証書遺言:本人が全文・日付・氏名を自分の手で書き、印を押す。財産の一覧(財産目録)だけは、パソコンで作ってもよい(その場合は、目録の各ページに署名と押印が要る)※1
- 公正証書遺言:証人2人以上の立ち会いのもと、本人が公証人に内容を口で伝えて作ってもらう※1
- 秘密証書遺言:本人が署名・押印して封をし、公証人1人と証人2人以上の前に出して、自分の遺言書であることを伝える。中身を秘密にしたまま作れる※1
【推測】表を作ってみて分かったのは、エンディングノートは遺言の「代わり」ではなく、遺言の「手前」にあるものだということです。まずノートで親の考えを聞き、財産の分け方まで決める必要があれば遺言へ進む。その順番がいちばん自然だと感じました。
エンディングノートに親に書いてほしいことは?

親に書いてほしいことは、まず「どこにどんな資産があるのか」と「相続で揉める可能性がある情報」です。 預金の銀行と支店、証券口座、保険、不動産、借入れの有無。これが分からないと、子は手続きのたびに探し回ることになります。医療や葬儀の希望は、そのあとで十分です。
私が今のうちに欲しいと思っているのは、どこにどんな資産があるのか、相続で揉める可能性がある情報です。
検索上位のエンディングノートの記事を10本読むと、書く項目として「財産」「葬儀」「医療と延命」「介護」「家族へのメッセージ」が、8本に共通して挙がっていました。全部を一度に埋める必要はありません。子の側から見て、先に聞いておきたい順に並べ直すと、こうなりました。
| 順番 | 書いてほしいこと | なぜ先に知りたいか |
|---|---|---|
| 1 | 預金・証券口座・保険の一覧(会社名・支店) | 手続きの入口になるため |
| 2 | 不動産と、その書類の置き場所 | 相続で話し合いが要る大きな財産のため |
| 3 | 借入れ・保証人になっているか | 知らないまま相続すると困るため |
| 4 | 通帳・印鑑・保険証券の置き場所 | 見つからないと、手続きが止まるため |
| 5 | 医療・介護・延命の希望 | 家族が判断を迫られる場面があるため |
| 6 | 葬儀・お墓の希望 | 急いで決める場面が多いため |
| 7 | 家族への言葉 | 残る形で受け取りたいため |
【推測】1〜4は、「相続で揉める可能性がある情報」につながるところです。財産の全体が見えないまま話し合いになると、「ほかにもあるのでは」という疑いが生まれやすいと考えました。
お墓のことは、墓じまいの費用を調べた記事にまとめています。6の「お墓の希望」を聞くときの参考になります。
エンディングノートを親に言い出しにくいのはなぜ?
エンディングノートを親に言い出しにくいのは、親に自分の死を現実的に考えさせることになるからです。 必要だと分かっていても、子の側から切り出すのは重い。できれば親のほうから言い出してほしい、というのが正直な気持ちです。言い出しにくさを前提に、切り出し方を考えます。
正直に書きます。
やっぱ言いにくいわ。言わなきゃってのはわかってるんだけど。親に死を現実的に考えさせることになるから。向こうから言い出して欲しい。マジで。
これが、私の今の気持ちです。
調べてみると、検索上位の記事のほとんどは「本人が自分で書く」前提で書かれていました。10本のうち、子の側から親に書いてもらう話を見出しにした記事はありませんでした。言い出しにくさに触れた記事も、見つけられませんでした。
【推測】「遺言を書いて」と言うよりは、「エンディングノート」のほうが少し切り出しやすいのかもしれません。法律の力が無いメモ帳なので、「財産を分ける話」ではなく「困らないための覚え書き」として渡せるからです。
【推測】切り出し方としては、次のような形が考えられます。
- 「自分のぶんを書いてみようと思って」と、子が先に書いてみせる
- 「通帳がどこにあるかだけ教えて」と、項目を1つに絞って頼む
- 全部を書いてもらおうとせず、空いたページがあってもよいと伝える
どれも、私はまだ試していません。言い出せていないのが、今の私の正直な状態です。
実家のことで親が元気なうちにやることは、生前整理のやることリストにまとめています。エンディングノートは、そのリストの答えを残しておく場所にもなります。
エンディングノートは紙とアプリどちらがおすすめ?
親がスマホを持っていないなら、エンディングノートは紙一択です。 アプリは書き直しやすく、家族と共有しやすい長所がありますが、スマホを使わない親には使えません。紙なら、書き方を教える必要もなく、置き場所さえ決めれば家族が見つけられます。親が続けられるほうを選ぶのが、いちばんのおすすめです。
うちの親は、そもそもスマホを持っていないので紙です。迷う余地がありませんでした。
検索上位の記事を読むと、10本中7本が「無料のダウンロード版」や「アプリ」にも触れていました。ただ、親がスマホを持っていない場合の進め方を書いた記事は、見つかりませんでした。
紙とアプリの違いを、表にします。
| 比べること | 紙のノート | アプリ |
|---|---|---|
| スマホが要るか | 要らない | 要る |
| 書き方を覚える手間 | ほぼ無い | 操作を覚える必要がある |
| 書き直し | 書き足し・二重線で直す | 何度でも書き換えられる |
| 家族が見つけやすいか | 置き場所を決めれば見つかる | パスワードが分からないと開けない |
| なくす・壊れる心配 | 火事・水濡れ・紛失 | 機種変更・パスワード忘れ |
【推測】アプリの「パスワードが分からないと開けない」は、子の側から見ると大きな弱点です。エンディングノートは、本人がいなくなったあとに家族が読むものだからです。紙のほうが、少なくとも「開けない」という心配はありません。
その代わり、紙には「どこにあるか分からない」という弱点があります。書いてもらったら、置き場所を家族で決めておくことが大事です。
紙のエンディングノートのおすすめの選び方は?
紙のエンディングノートは「書く欄の広さ」「項目の多さ」「遺言の説明が載っているか」の3点で選ぶと迷いません。 親が書くなら、字を大きく書ける広い欄が向いています。項目が多すぎると途中で止まりやすいので、全部を埋めなくてよい作りのものが安心です。遺言との違いが載っていれば、家族の誤解も防げます。
検索上位の記事では、10本中8本が「目的別に選ぶ」「解説やコラム付きを選ぶ」を選び方に挙げていました。親に書いてもらう前提で、選ぶときに見たいところを並べます。
- 書く欄の広さ:【推測】年を重ねると、小さな字で細かく書くのは大変になります。1つの項目に広い欄があるもののほうが、書き続けやすいはずです
- 項目の量:【推測】項目が多いほど網羅できますが、多すぎると「全部書かないといけない」と感じて手が止まりそうです。最初は財産のページだけでもよい、と伝えられる作りが向いています
- 遺言との違いの説明:ノートの中に「エンディングノートには法律の力が無い」と書いてあれば、家族が「ノートに書いてあるから」と誤解するのを防げます
- 本か、文具か:書店で買える本の形のものと、文具メーカーのノートの形のもの。本の形のものは、書き方の解説が付いていることが多い、と上位の記事で紹介されていました
書く項目の抜けを防ぐことに重きを置いた1冊に、山田静江さんの一番使えるわたしのエンディングノート 今日から役立つ、書き忘れがない(主婦の友社)があります。題名のとおり「書き忘れがない」ことをうたったノートです。財産の一覧を親と一緒に埋めていきたいとき、どんな項目が並んでいるかを見比べる候補になります。
【推測】私なら、まず1冊を親に見せて、「この財産のページだけでも」と頼むところから始めたいと考えています。
財産の分け方まで決めたいときは遺言が必要?

財産の分け方まで決めたいなら、エンディングノートではなく遺言が必要です。 自分で書く自筆証書遺言は、法務局に1通3,900円で預けられ、その場合は亡くなったあとの家庭裁判所の「検認」が要りません。公正証書遺言は証人2人以上が要ります。ノートで親の考えを聞いてから、遺言へ進む流れが自然です。
エンディングノートで親の考えが分かったら、次に考えるのが遺言です。ここでは、自分で書く遺言(自筆証書遺言)を預ける制度を中心に整理します。
自分で書いた遺言は、家庭裁判所の「検認」が要る
民法1004条では、遺言書を持っている人は、亡くなったあと遅れずに家庭裁判所に出して「検認」を受けなければならない、とされています※1。検認とは、家庭裁判所が遺言書の形や中身を確かめ、あとで書き換えられないようにする手続きです。
封がしてある遺言書は、家庭裁判所で、相続人などの立ち会いのもとでなければ開けられません※1。【推測】見つけた家族が、その場で開けてしまわないように、知っておきたい決まりです。
法務局に預けると、検認が要らなくなる
自分で書いた遺言書は、法務局に預けることができます(自筆証書遺言書保管制度)。法務省の案内には、預けた遺言書は「相続開始後、家庭裁判所における検認が不要です」と書かれています※3。法律でも、預けた遺言書には検認の決まりを当てはめない、とされています※4。
預けるときの手数料は、遺言書1通につき3,900円で、収入印紙で納めます※2。
ただし、法務省の案内には「本制度は、保管された遺言書の有効性を保証するものではありません」ともあります※3。預けたからといって、書き方の誤りまで見てもらえるわけではありません。
遺言でも、すべてを自由に決められるわけではない
民法には「遺留分」という決まりがあります。親や子などの相続人には、最低限受け取れる割合がある、という決まりです。全体に対する割合は、相続人が親や祖父母だけのときは3分の1、それ以外のときは2分の1です※1。
【推測】「全部を長男に」と遺言に書いても、ほかの相続人がこの割合を求めれば、その分は渡すことになります。相続で揉める可能性がある情報を今のうちに知りたい理由の1つが、ここでした。
遺言の書き方や中身は、家族の事情によって大きく変わります。実際に遺言を書くときは、弁護士・司法書士・公証役場など、専門の方に相談してください。
エンディングノートのおすすめのまとめ


エンディングノートは法律の力が無いメモ帳で、遺言の代わりにはなりません。 それでも、どこにどんな資産があるのかを残すにはいちばん手軽な方法です。親がスマホを持っていないなら紙のノートを選び、財産のページから頼む。財産の分け方まで決めたくなったら遺言へ進む。これが、調べてたどり着いた順番です。
調べたことを、もう一度並べておきます。
- エンディングノートは法律の力が無い「伝えたいことのメモ帳」
- 遺言は、民法の方式(自筆証書・公正証書・秘密証書の3種類)で書いたときだけ法律の力がある
- 遺言は15歳から書けて、いつでも書き直せる
- 親に書いてほしいのは、まず資産のありかと、相続で揉める可能性がある情報
- 親がスマホを持っていないなら、紙のノート
- 紙のノートは、欄の広さ・項目の量・遺言の説明の有無で選ぶ
- 自分で書いた遺言は、法務局に1通3,900円で預けると検認が要らない
- 遺言にも、遺留分という限りがある
周りで書いた人を見たことがなく、遺言との違いも知らなかった私が、ここまで分かりました。
それでも、親に言い出せるかどうかは別の話です。やっぱり言いにくい。できれば向こうから言い出してほしい。その気持ちは、調べたあとも変わっていません。
まずは、親が元気なうちにやることを生前整理のやることリストで見直しながら、切り出すきっかけを探すつもりです。
※この記事は、筆者が親のエンディングノートについて調べた記録です。遺言や相続の扱いは、家族の事情によって変わります。実際の手続きは、専門の方に相談してください。
出典
- ※1 民法(明治二十九年法律第八十九号)(e-Gov法令検索)
- ※2 09 手数料(法務省)
- ※3 01 遺言書保管制度とは?(法務省)
- ※4 法務局における遺言書の保管等に関する法律(平成三十年法律第七十三号)(e-Gov法令検索)
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